和楽多屋日記

伝統工芸・和雑貨の「和楽多屋」店長の日記。

等伯の野望

先日、NHKの「美の戦国合戦〜長谷川等伯vs.狩野永徳 絵師たちの夢と野望〜」というのをやっていました。一介の町絵師である等伯が、代々続く御用絵師集団の狩野派と戦い、自ら御用絵師となる野望を叶えていくかを描いた番組でした。

当時、絵師といえば、芸術家というより職人に近く、いかに注文者の気に入る作品を創り出すかに命をかけていたんですね。そもそも芸術なんて概念が出てきたのは、近代になってからだと思います。絵師は自分の描きたいものを自由に描くのではなく、あくまでも依頼主の気に入る絵を描かないといけません。しかし、そこに自らの技術の粋を尽くしたのでした。

等伯は京に出て、やがて千利休の庇護を得ますが、やがて利休は切腹。そして争っていた狩野永徳の急死。さらにはまだ若い息子の死。その後認められた秀吉も死んでしまいます。

後ろ盾、ライバル、そして後継者の死に向かい合うことになった等伯は、その頃に、「松林図屏風」を描きます。これはそれまでの権力者好みの派手なものではなく、水墨画のような地味な絵です。これは故郷にある松林を描いたものであると言われ、さらに誰の依頼で描いたものか、分からないそうです。もしかしたら等伯は、この絵に関しては、自由に描いたのかもしれません。自らの虚無感と望郷の念を込めて…。

素晴らしい職人技です。

銀製 瓢箪のかんざし

和楽多屋スタッフ:MORI