和楽多屋日記

伝統工芸・和雑貨の「和楽多屋」店長の日記。

ユートピア思想と千年王国思想

人類は古代から“理想郷”にあこがれていました。それは人類が森を追われ猿の末裔であり(ま、いろんな説があるでしょうが、ここではとりあえずそうしておいてください)、過酷な環境に身をさらさざるを得なかったからだと想像します。

“理想郷”というと一般には「ユートピア」という言葉を思い起こすでしょう。「ユートピア」はもともと16世紀イギリスの官僚であり政治家であったトマス・モアが書いた本の題名です。それはラテン語で「どこにもない場所」という意味になる造語で、本の中では、架空の国の名前として登場します。それは共存共栄の争いのない世界、穏やかで心休まる理想郷なのです。

中国にも同じような世界観があって、それは「桃源郷」と呼ばれます。こちらは中国東晋宗の詩人陶淵明が書いた「桃花源記」から来ていて、桃の花の咲き乱れる俗世間を離れた平和な世界理想郷が描かれています。

これらはしかし、どちらかというと母性的な世界観でしょう。子宮の中の暖かい羊水に包まれ、大きな愛に守られる幸せという考え方です。

しかし、その一方で父性的な“理想郷”に対する考え方もあります。それは「千年王国」です。こちらは、キリスト教の終末思想の一つで、神が直接地上を支配する千年王国に入るために、人々はそのために罪を悔い改める。つまり全ての人が千年王国という“理想郷”に入れる訳ではなく、厳しく自らの成長を求められるのです。これは全ての人間を包み込む母性的な愛ではなく、子供を鍛え上げる父性的な愛と言えるのではないでしょうか。

現代は悲しいけれど、どちらの“理想郷”からも遠ざかっているような気がします。ユートピアにしろ千年王国にしろ、それを目指す志がなくなったからでしょうか。目先のことにとらわれるのはある程度仕方がないですが、いつも心の中に自分の“理想郷”を持つことは、大切なことではないかと思います。

和楽多屋スタッフ:MORI